なぜか懐かしい、でも聴いたことない──Z世代が感じる“音のエモさ”
TikTokやInstagramで動画を見ていて、
「この曲、知らないはずなのに、なんかエモい」
そう思ったことはありませんか?
最近Z世代の間で、「初めて聴くのに懐かしい」「よくわからないけど切ない」と感じる音源が、
じわじわと使われ、バズを生んでいます。
それがいわゆる**“記憶ハック系サウンド”**と呼ばれる音源。
明確な定義があるわけではありませんが、「無意識に感情を揺さぶる音」「既視感のような既聴感」があるサウンド群です。
そもそも“記憶ハック”って?
「記憶ハック」とは、
過去の体験や感情を意図的に呼び起こす設計や仕掛けのこと。
たとえば、
- 小学校の教室で流れていたピアノBGMのような音色
- お祭りの夜に遠くから聞こえてきた和風チップチューン
- VHS風のフィルターと一緒に流れる90年代っぽいポップス
どれも「思い出せそうで思い出せない」「何かを連想させる」という感覚を引き起こします。
それが「エモい」と感じられ、**音源自体の“バズ力”**につながっているのです。
バズる音源の“エモさ”に共通する要素
Z世代が「記憶ハック系サウンド」にエモさを感じるとき、そこにはいくつかの共通要素があります。
① ノスタルジーの“型”がある
- ピアノのアルペジオ
- ゆっくりめのテンポ
- アナログ感(レコードのノイズ、カセット風エフェクト)
特に、2000年代のテレビ番組やCMっぽい音作りは、
当時を知らないZ世代にも“既視感ならぬ既聴感”を与えるようです。
② 言語がわからない=想像が膨らむ
- 意図的に日本語ではない言語を使っている
- 音声にリバーブが強くかかっていて、何を言っているのかわからない
言語が明確に聞き取れないことで、聴き手の想像を刺激する余白が生まれる。
「なんか切ない」「意味はわからないけど胸にくる」という感覚を引き出します。
③ “風景”とリンクするような構成
- 夕焼け、海、夜道、学校などの映像にマッチしやすい
- ループ性があり、短い動画に心地よく馴染む
音だけでなく、“どんなシーンと一緒に使われるか”が「記憶ハック」効果を高めます。
なぜZ世代は「意味のないエモさ」に惹かれるのか?
「この曲、何がいいのかわからないけど、ずっと聴いてしまう」
そう感じたことがあるZ世代は少なくありません。
ではなぜ、Z世代はそうした「意味のないエモさ」に惹かれるのでしょうか?
▶ “自分の感情”を投影できるから
意味や文脈が曖昧な音源には、“解釈の余地”があります。
その余地に、自分の感情や記憶を自然に重ねてしまうのです。
つまり、「エモい」のではなく、「自分が今、エモい感情を持っていた」という逆転現象。
Z世代にとってSNSとは、見せる場であると同時に、
感情を整理し、感覚を共有する場でもあるため、
そうした音源は“今の気分”を代弁してくれる存在になります。
制作者側も“エモくなる仕掛け”を使っている
近年のTikTok用音源やBGMでは、意図的に「エモく聴こえる」設計がなされています。
たとえば:
- 音の最初をあえて切る(視聴者に“途中から感”を与える)
- ドローン音や環境音を混ぜて“空気感”を出す
- ボーカルをローファイ化し、少し古びた音質にする
こうした音作りは、リスナーに「これはどこかで聴いた気がする…」という錯覚=記憶ハック効果を与えます。
記憶ハック系サウンドの投稿がバズるワケ
実際に、記憶ハック系サウンドを使った投稿は
- コメント欄が「これなぜかわかんないけど泣いた」で埋まる
- “音源名不明”なのにスピード拡散される
- 保存数が多く、あとからリバイバルされる
など、長期的にバズりやすい傾向があります。
これは、情報よりも感情が先に届く構造だからこそ。
SNSの中でも、**「見て感じる」よりも「聴いて引き込まれる」**という特性が、Z世代の心を掴んでいるのです。
「感覚で聴く」世代と音源トレンドのこれから
Z世代は“意味”よりも“空気”を感じ取りやすい世代です。
そのため、説明がないまま始まり、感情だけが残るような音源に、強く反応します。
今後も、
- 記憶に残るようで残らない
- 感情を動かすけど理由がわからない
そんな“記憶ハック系サウンド”が、SNSでの「刺さるBGM」として主流になっていくかもしれません。
自分の感覚にフィットする音源を選び、それを背景に自分の日常を切り取る。
Z世代にとって、それが“バズる”ためではなく、“気分を共有する”ための音選びになってきているのです。
ライター:ミナト・セリ
Z世代の“感覚派”トレンドを読み解く、感性とデータのあいだで生きるSNSウォッチャー。
音感・空気感・没入感…数値では測れない“なんか良い”を言語化するのが得意。TikTokやリールに漂うエモーショナルなムードや記憶に触れるサウンド設計に注目し、「バズの裏側にある感情構造」を深掘りすることがライティングテーマ。