「みんな同じ」から始まる新しい美学
「量産型」という言葉には、かつて少しネガティブな響きがありました。
同じ髪色、同じ服、同じポーズ。
「個性がない」と言われることを恐れて、わざと人と違う方向を選ぶ人も多かった。
でも今、Z世代のSNSではその感覚が変わり始めています。
「みんな同じ」であることが、安心感や一体感の証になっているのです。
「似ていること」が悪いことじゃない

トレンドの服を着て、同じカフェに行き、同じフィルターで写真を撮る。
それを「真似」と呼ぶ人もいるけれど、Z世代にとっては共鳴の証。
「同じものが好きな人とつながれる」
「“わかる!”って言ってもらえるとうれしい」
そんな声が、SNSのコメント欄にはあふれています。
“似ている”ことは、誰かのコピーではなく、同じ感性を持つ仲間であるというサインになっているんです。
「量産型」=共感のデザイン
SNSで流行する「量産型メイク」「量産型コーデ」は、ただのファッションではなく、“共感を設計するデザイン”に進化しています。
同じ色味、同じポーズ、同じ構図。
それは“共通言語”のようなもの。
人は共感を覚えた瞬間に安心します。
その心理をZ世代は無意識に掴み、「共感できる世界観」こそが可愛いと感じているのです。
そして、その共感の中でこそ、ひとりひとりの個性が静かに浮かび上がっていきます。
“違うこと”より“近いこと”の安心

SNSの世界では、毎日どこかで新しいトレンドが生まれます。
だけど、常に「違うこと」を探すのは疲れてしまう。
Z世代は、あえて“近い存在”を求めています。
同じ服を着て、同じ言葉を使って、同じ空気の中で過ごす。
その“近さ”が心を落ち着かせる時代なんです。
“量産型”と呼ばれてもいい。
それは「自分が属している場所」を感じるための表現だから。
ブランドも“量産型”から学ぶ時代へ
企業やブランドも、Z世代のこの美学を見逃してはいません。
「個性を出す」広告よりも、「みんなで真似したくなる」投稿が支持を集めています。
たとえば、同じ背景・同じ構図・同じ音源を使ったUGCキャンペーン。
そこにZ世代は自然と参加していく。
“量産”とは、同じ体験を共有できる仕組み。
ブランドがそこに誠実さと親しみを感じさせれば、単なるトレンドではなく、文化として根づくのです。
まとめ

“量産型”という言葉が揶揄から称賛へと変わった今。
Z世代は「個性を競う」時代を抜け出し、「共感を分け合う」時代を生きています。
似ているから、心地いい。
同じだから、安心できる。
それは、SNSの中に生まれたやさしい連帯感のかたちなのかもしれません。
ライター:アヤノ・モカ
SNS文化と若者心理をテーマに執筆。Z世代の“空気感”を読み解き、言葉と写真のあいだにある感情を丁寧に描く。


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