“無加工フィルター”って矛盾してない?Z世代が求める“偽リアル”の正体

“無加工フィルター”って矛盾してない?Z世代が求める“偽リアル”の正体
“無加工フィルター”って矛盾してない?Z世代が求める“偽リアル”の正体
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「無加工風」があえて選ばれる時代

SNSでよく見かける、「無加工です」「#nofilter」といったハッシュタグ。
でもよく見れば、肌はつるつるで、色味も絶妙に整っている。
「本当に無加工?」と思いつつも、不思議とその“自然さ”に惹かれてしまう。

Z世代の間では、“無加工っぽく見えるフィルター”が人気を集めています。
実際には補正や加工がされているのに、それが「自然に見える」ことで共感を呼ぶ。
そんな**“リアルに見える偽物”=偽リアル**が、新たな美意識として定着しつつあるのです。

いったい、なぜ加工しているのに“無加工風”が好まれるのでしょうか?
そこには、リアルと演出の絶妙なバランスを求めるZ世代の価値観が隠れています。

本音は「無加工はイヤ、でも盛りすぎもダサい」

Z世代にとって、「盛ること」はもはや当たり前。
でも、それが“あからさま”になるのは避けたい。
つまり、「加工してるとバレないように加工する」──このグレーな絶妙さが求められているのです。

実際、SNSでは次のような声がよく聞かれます。

  • 無加工だと肌荒れが気になるけど、フィルター感が強すぎるのも古く見える。

  • 肌だけ自然に整えたい。目や輪郭を変えるのは違う。

  • フィルターっていうより“雰囲気を整える”くらいがちょうどいい。

これは、「演出したい自分」と「自然でいたい自分」の葛藤とも言えるでしょう。
過剰な加工が「ウソっぽくて引かれる」一方で、本当の“ありのまま”は出しづらい。
だからこそ、“無加工っぽいけどちょっと整ってる”という中間地点が選ばれているのです。

「無加工フィルター」という矛盾は、実はZ世代らしさの象徴

いかにも加工しました!という投稿が避けられるのは、
“自分のための投稿”が増えていることとも関係しています。

たとえば、「人からどう見られるか」よりも、「この空気感が好きだからシェアしたい」。
そんな思いで投稿された写真には、“きれいだけど頑張りすぎていない”というトーンが流れています。

実は「無加工風フィルター」には、以下のような狙いがあります。

  • 自己満足を守るための最低限の演出

  • 共感を得るための“自然っぽい”トーン

  • 他者にマウントしないための抑えめな仕上げ

つまり、これは加工技術の話というよりも、見せ方と距離感の話なんです。

“本物っぽさ”は信頼感に変わる

リアルを感じさせる投稿は、フォロワーからの信頼にもつながりやすい。
とくにストーリーズやリールでは、「リアルな生活感」が映っている方が、
見ている側の心のハードルが下がるという声も多く聞かれます。

たとえば:

  • 少しだけ逆光で、完全には写りきっていない写真。

  • 手ブレ気味でも、撮った瞬間の臨場感がある動画。

  • 視線を外したままの自然な笑顔

こうした投稿には、「頑張ってない感じ」が漂っていて、かえって親しみを生みます。
無加工風フィルターは、そういった「ほどよいリアル」を助けてくれるツールとして重宝されているのです。

「本当のリアル」には、誰も耐えられない

ここで少し立ち止まって考えてみると、面白い矛盾があります。
それは、「無加工を求める」ように見えて、実際には誰も“完全なリアル”を出していないこと。

肌のトーン、クマ、天気の悪い空、部屋の生活感……
それらをそのまま載せると、たいてい反応は鈍くなってしまう。

本当の“リアル”は、意外とSNSで共有するにはハードルが高すぎるのかもしれません。
だからこそ、「リアルに“見える”加工」で調整する、という発想が必要になる。

Z世代の感覚は正直です。
“ウソじゃない程度の演出”で、自分の居場所を作っているとも言えるでしょう。

加工は「盛るため」から「整えるため」へ

もはやフィルターは、外見を盛るためのものではなく、
**自分らしい空気を整える“演出ツール”**へと進化しています。

これは、写真だけでなく動画、文字、ストーリーの話にもつながっています。
たとえば、テキストのフォントや色選び。
無音動画における字幕のスピード感や配置。

すべてに共通しているのは、「ちょうどよく伝えるための整え方」。
つまり、伝わり方まで含めて“自分らしさ”をデザインしているということなのです。

まとめ:「無加工フィルター」は、“ちょうどよく整えたい”というリアルな願望

「無加工って言ってるのに、フィルター使ってるじゃん」
そんなツッコミは、ある意味でズレているのかもしれません。

Z世代が求めているのは、“真実”そのものではなく、
“これくらいが自分っぽい”という納得のラインなのです。

それは、盛るのでも、サボるのでもない。
「少しだけ自信が持てる状態」で、誰かとつながるための準備。

SNSの中でリアルをどう整えるか。
その問いに対して、無加工風フィルターという答えを選ぶZ世代の感覚は、
とても誠実で、実はとてもリアルなのかもしれません。

ライター:ミナト・セリ
SNSにおける“自分らしさの演出”に敏感なZ世代ライター。美意識やフィルター文化の変化を、感覚と言葉の間で丁寧に観察するのが得意。無理なく盛れる投稿の裏側や、“偽リアル”にこそ宿る信頼感を日々探っている。

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